アスペルガーの父と、思い込みの強い母の朝の会話。
昨日と気温
今朝、父が珍しく出かける支度をして居間へ入ってきました。
病院へ行くためです。
「今日は雨が降るのかな、傘はいるかな」と父が尋ねました。
母は突然現れてしゃべった父に驚いたかのように固まって、
「雨、降ってるわよ」
と外も見ずに言いました。
母の後ろの窓から見える空は明るく、雨はすでに上がって日が差しています。
日差しに気づいた母はちょっと振り返って外を確認し、
「あ、もう雨あがってるけど、不安定みたいだから傘持って行ったほうがいいわよ」
と言いなおしました。
「車の予定はどう?」
と父がきくと、
「え?」
「今日車使う?」
「使わない」
病院はちょっと遠いので、たしかに電車で行くのはたいへんだけど、父が車で行くつもりだということがわかって少し不安がよぎります。
先日もガソリンを入れるために車を運転していて、ほかの車と接触事故を起こしたばかりです。
「上着はもったの?」
と母が聞きました。
父は自分の服装を見下ろして、
「今日はあったかくなるらしいから、これでだいじょうぶだろ」
「もしものために、車にのせておいたら?」
「今日は19度くらいまであがるらしいから、これで大丈夫だ」
父が言い張るので、母は新聞紙の天気予報の欄を見て、
「今日は晴れのち雨だって」
「気温は?」
「昨日のは書いてないわ」
「気温」
「今日と明日の分しか」
そこで、母はようやく「気温」を「昨日」と聞き間違えていたことに気づいたようでした。
「最高気温が19度で、最低が12度だって」
「じゃあ、今よりあったかくなるから、だいじょうぶだ」
「そう、気を付けてね」
「いってきます」
「え?」
母はなにかの質問かと思って聞き返していましたが、父は言いなおすことはせずに、そのまま居間を出て行きました。
父の声がくぐもっているせいもあるが、母には自分の思い込みで会話を先回りする癖があるので、予想外の単語は聞き取りにくいのかもしれません。
出かけるときに
「いってきます」
という言葉を残していくことが予想外、なのが母にとっての父。
はたから聞いていると、
「なんでそんな答えになるんだろう?」
という、かみ合わない会話にしかみえませんが、私が口を出すまでもなく父は自分が思うとおりにしか行動しないし、母はよくわからなかったことは笑って済ませます。
家族というものは、かみ合わなくても成り立っていくものですが、そのつながりは案外もろいものだから丁寧に扱う必要がある、と私は認識しています。